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- 慢性呼吸不全
- 在宅酸素療法(HOT)
- 急性増悪
慢性呼吸不全を学ぶ!〜急性増悪への対応と在宅酸素療法の看護〜
慢性呼吸不全の患者さんは、急性増悪への対応が必要となる場合があります。また、在宅酸素療法(HOT)では、アドヒアランスの向上や患者さんにあったデバイスの選択も大切です。ここでは、急性増悪の対応や在宅酸素療法における看護のポイントを紹介します。
※アドヒアランス・・・患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って自ら行動することをいう。
「10分でわかる!酸素療法デバイスの基礎知識」(無料ダウンロード)では、酸素療法デバイスの特徴や注意点をやさしく解説しています。酸素投与を適切に行うために是非あわせてご覧ください。
医学的監修
公立陶生病院
呼吸器・アレルギー疾患内科/救急部集中治療室
横山俊樹 先生
慢性呼吸不全とは
どんな病気・症状?
呼吸不全とは、肺が体の中に酸素を取り入れて二酸化炭素を出すという呼吸本来の働きを果たせなくなり、動脈血酸素分圧(PaO2)が60mmHg以下なっている状態です。(呼吸不全については、「呼吸不全の看護」を参照してください)
そして、このような呼吸不全の状態が1ヵ月以上続いた場合を慢性呼吸不全と言います。
慢性呼吸不全を引き起こす肺の疾患として、喫煙者に多くみられる慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がん、肺結核後遺症、間質性肺炎などがあります。症状としては、酸素が不足することによる息切れが代表的で、軽症では労作時に呼吸困難があらわれ、重症になると日常生活までもが困難となります。
【シーン別】
慢性呼吸不全への呼吸療法
慢性呼吸不全に対しては、原因となる疾患の治療とともに「在宅酸素療法」、「換気補助療法」、「呼吸リハビリテーション」が行われます。
在宅酸素療法
在宅酸素療法(HOT)は、自宅に設置した酸素濃縮装置から鼻カニュラ(または酸素マスク)を装着して酸素を吸入し、動脈血の酸素分圧を保つようにします。
換気補助療法
低酸素血症に加えて高二酸化炭素血症が問題となっている場合は、酸素を吸入するだけでは状態が改善しないため、人工呼吸器などを用いて呼吸を補助する必要があります。従来の人工呼吸では気管切開するケースが多くみられましたが、最近では専用のマスクを装着して鼻や口から換気する非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が在宅でも行われるようになっています。
呼吸リハビリテーション
日常生活の指導をはじめ、運動療法や栄養指導、肺理学療法など、呼吸状態の維持・改善を目的とした包括的な呼吸リハビリテーションを行います。
慢性呼吸不全の急性増悪への
対応方法とは?
慢性呼吸不全の患者さんは、感染などをきっかけに呼吸状態が悪化する急性増悪に注意が必要です。咳や喘鳴、明らかな原因のない発熱、上気道感染、呼吸数増加・心拍数増加などが急性増悪のサインです。
慢性呼吸不全の急性増悪に対しては、人工呼吸器やNPPVが第一選択となりますが、稀に酸素投与のみで対処が可能な場合もあります。いずれにしても酸素投与する場合はSpO2を88~92%にコントロールすることが推奨されています。
COPDなどのⅡ型呼吸不全の患者さんへは、CO2ナルコーシスを避けるために高濃度酸素の投与に注意が必要ですが、CO2ナルコーシスを恐れるあまり酸素投与を躊躇することで低酸素脳症に陥る可能性があります。
CO2ナルコーシスは強制換気で解決できますが、低酸素血症によって引き起こされる低酸素脳症は不可逆的なため、酸素不足で低酸素状態にならないよう注意することも重要です。(CO2ナルコーシスについては、「酸素療法で注意すべきCO2ナルコーシス」を参照してください)
慢性呼吸不全患者の看護
~アドヒアランス向上のために~
患者さんが在宅酸素療法(HOT)を生活の中に取り入れ、生活の質(QOL)を向上させるためには、HOTに対する否定的な思いを軽減し、アドヒアランスを高めことが重要です。患者さんにとって鼻カニュラや携帯型酸素供給器を使用することは煩わしく、また、人からどう見られているかが気になるものです。患者さんのHOTに対する心情や受け入れ状況、認知能力、望んでいる生活などを把握しながら、個々の患者さんに必要な知識・技術を提供すると同時に、患者さんの身体が心配であること、医療スタッフは患者さんのパートナーであることも伝えます。患者さんの小さな行動の変化を捉え、それを承認しながら患者さん自身が変化しようとする気持ちをサポートすることが大切です。
在宅酸素療法時の酸素供給方法・装着デバイスの選択について
最近は酸素ボンベや酸素濃縮装置などの酸素供給方法も、一定量の酸素を出し続ける「連続式」だけでなく、吸気のみに酸素が流れる「同調式」やバッテリーで駆動する「携帯型酸素濃縮装置」などが普及し、HOT患者さんが外出できる範囲も広がっています。
患者さんがアクティブに活動できる環境となったことはとても喜ばしいことですが、歩行や入浴などの動作で生じるSpO2低下の程度は患者さんごとに異なります。各日常生活動作(ADL)における適切な酸素投与量を検討するためには6分間歩行試験などを評価し、医師や看護師、理学療法士などが連携し情報を共有することが重要です。
装着するデバイスは、患者さんの呼吸状態や酸素投与量に応じて選択します。通常の鼻カニュラでは労作時にSpO2が低下する場合は、より高濃度の酸素が投与できるリザーバ付鼻カニュラの使用を検討します。また、睡眠時などに口優位な呼吸となり、鼻カニュラでは充分な酸素が吸入できない患者さんに対しては、開放型マスクを使用すると5L/分以下の酸素流量でも安定的な酸素投与が可能であると示唆されています。(酸素療法デバイスについては、「酸素マスクなどデバイスの種類と特徴」を参照してください)
まとめ
- 慢性呼吸不全とは、動脈血酸素分圧(PaO2)が60mmHg以下の呼吸不全の状態が1ヵ月以上続いた場合をいう。
- 慢性呼吸不全の主な基礎疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、間質性肺炎、肺がんなどがある。
- 慢性呼吸不全に対しては、自宅に設置した酸素濃縮装置から酸素を吸入する在宅酸素療法(HOT)、高二酸化炭素血症が問題となっている場合に換気をサポートする換気補助療法、様々な指導・療法を組み合わせた呼吸リハビリテーションが行われる。
- 慢性呼吸不全の急性増悪への対応の第一選択は換気補助療法(人工呼吸器やNPPV)で、SpO2は 88~92%をターゲットに酸素投与を行う。 ・慢性呼吸不全の患者さんの不安を理解し、患者さん自身が積極的に治療へ参加できる環境を作ることが大切。
- 在宅酸素療法では患者さんのニーズに合った酸素供給方法(ボンベや酸素濃縮装置)、酸素投与量、装着デバイス(鼻カニュラ・リザーバ付鼻カニュラ・酸素マスクなど) を検討することが重要。
【参考文献】
- 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会, 日本呼吸器学会編, 酸素療法マニュアル, メディカルレビュー社, 2017
-
日本呼吸器学会サイト, 呼吸器の病気, H呼吸不全,
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=37 - 竹川幸恵, 在宅酸素療法に対するアドヒアランスを維持しQOLを向上させる支援, Respiall通信Vol.4, アトムメディカル, 2021. 2
- 梶原𠮷春, CO2排出性能を有するオープンフェースマスクの使用評価, アトムメディカル, 2017. 7