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酸素療法で注意すべきCO2ナルコーシス~恐れず酸素投与を行うために~

CO2ナルコーシスは、酸素療法の合併症の1つです。特に、Ⅱ型呼吸不全の患者さんに酸素療法を行う場合、CO2ナルコーシスに注意する必要があります。ここでは、酸素療法でCO2ナルコーシスが発生するメカニズムや看護する際の注意点について解説します。

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医学的監修

公立陶生病院
呼吸器・アレルギー疾患内科/救急部集中治療室

横山俊樹 先生

CO2ナルコーシスとは?

呼吸の自動調節機構に異常が生じ、肺胞の換気が不十分となった場合に二酸化炭素(CO2)が体内に蓄積され、意識障害などの中枢神経症状が現れる病態をCO2ナルコーシスといいます。

CO2ナルコーシスが起こると、初期には呼吸促迫や頻脈、発汗、頭痛などの症状が見られ、進行すると意識レベルの低下が起こり、傾眠から昏睡に至ります。意識障害、高度の呼吸性アシドーシス、自発呼吸の減弱はCO2ナルコーシスの3主症状としてよく知られています。

呼吸の自動調節機構について

呼吸と血液ガスの関係性はとても深く、動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)や酸素分圧(PaO2)、pHが変化するとその情報は呼吸中枢に伝えられ、呼吸は自動的に調節されます。例えば、何らかの原因でPaCO2が上昇したりPaO2が低下したりした場合、呼吸中枢がそれを感知して換気を増大させ、その逆であれば換気を抑制させて、PaCO2やPaO2を一定の状態に保とうとします。

健常者においては、PaCO2の変化に対する呼吸中枢の感度が高く、PaCO2が狭い幅(36〜44 Torr)に維持されるよう肺胞換気量が調節されているので、PaO2よりもPaCO2変動のほうが呼吸中枢へ早く伝達されます。

酸素療法でCO2ナルコーシスが起こるのはなぜ?

CO2ナルコーシスは、特にⅡ型呼吸不全の患者さんに酸素療法を行う際に注意すべき合併症です。

前述の通り、健常者ではPaCO2の変動が呼吸中枢へ優位に伝達されますが、慢性的な高二酸化炭素血症があると、呼吸中枢はPaCO2の上昇に反応しにくくなるため、主にPaO2の低下を感知して呼吸を促進させます。このような状態で高濃度の酸素を投与し、PaO2が一定以上に上昇すると、呼吸中枢は酸素が足りていると判断し、呼吸を抑制もしくは停止してしまいます。その結果、肺胞低換気となりCO2がさらに蓄積し、CO2ナルコーシスに陥ってしまうのです。

CO2ナルコーシスが起こるメカニズム

CO2ナルコーシスが起こるメカニズム

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺結核後遺症などの呼吸器疾患は、CO2ナルコーシスをきたしうる基礎疾患として臨床的に多く認められます。また、中枢神経障害(脳血管障害、脳炎など)や神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)の患者さんでも注意が必要です。

CO2ナルコーシスを防ぐための看護のポイント

呼吸不全の患者さんは増悪時に重度の低酸素血症をきたし、不整脈や心筋梗塞などの致死的な病態を引き起こすおそれがあります。CO2ナルコーシスを恐れるあまり酸素投与をためらうようなことは、避けなければなりません。

酸素投与前にできる限り既往歴を確認する

前述したように、CO2ナルコーシスは慢性的な高二酸化炭素血症があると起こりやすい病態です。したがってCO2ナルコーシスを防ぎながら適切な酸素療法を行うには、既往歴を確認することが大切です。例えば、普段から息切れのあるCOPDの増悪時ならCO2ナルコーシスのリスクは高く、普段は息切れのない気管支喘息の発作ならリスクは低いと考えられます。

ターゲットSpO2を活用して酸素投与を行う

CO2ナルコーシスのリスクが高い基礎疾患がある患者さんに対しては、吸入酸素濃度が安定している高流量酸素療法のベンチュリマスクを用いて、24%といった低濃度設定から酸素投与を開始します。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)で酸素化の評価を行い、吸入酸素濃度の設定・管理を行うことが大切です。GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)のガイドラインでは、COPDの急性増悪時の酸素療法におけるターゲットSpO2を88~92%とすることを推奨しています。

意識障害などの兆候がないか患者さんを観察する

CO2ナルコーシスの兆候を見逃さないよう患者さんの状態をよく観察し、頻回の動脈血ガス分析を実施してアシドーシスの有無を確認することも重要です。CO2ナルコーシスに陥ってしまい、呼吸抑制や意識障害が現れた場合、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や挿管下での人工呼吸管理が必要になります。

まとめ

  • 呼吸の自動調節機構に異常が起こり、肺胞低換気をきたすことで体内にCO2が蓄積し、意識障害などの中枢神経症状が現れる病態をCO2ナルコーシスという。
  • 慢性的な高二酸化炭素血症がある場合、呼吸中枢は主にPaO2の変化を感知して呼吸を調節している。こうした状態で高濃度の酸素を投与すると、PaO2の上昇に応じて呼吸が抑制され、CO2ナルコーシスに陥ってしまうおそれがある。
  • CO2ナルコーシスのリスクが高い基礎疾患がある場合は、低濃度から酸素投与を開始してSpO2で酸素化の評価を行い、吸入酸素濃度を設定・管理する。
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【参考文献】

  • 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会, 日本呼吸器学会 編: 酸素療法マニュアル, メディカルレビュー社, 2017.
  • 寺沢秀一, 日内会誌, 97: 213-219, 2008.
  • GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease), 2020 Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease, 2020.

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