血液製剤の種類と特徴:止血目的の輸血ではどう使い分ける?

血液製剤は主に血液分画製剤と輸血用血液製剤に分けられ、輸血用血液製剤はさらに赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤、全血製剤に分類されます。その中で、止血を目的に使用されるのが、新鮮凍結血漿(FFP)、クリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤の3種類です。ここでは、これら3種類の血液製剤の特徴と使い分けについて解説します。

(山本晃士先生のクリニカルレポートより一部抜粋しています。全文をご覧になりたい方はこちらから>https://form.k3r.jp/atomed/FibCareReport

止血目的に使用する血液製剤の種類と特徴

新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)

新鮮凍結血漿(FFP)は、血漿成分と血液保存液(ACD-A液)を凍結した血液製剤です。FFPには、フィブリノゲンを含む複数の凝固因子が含まれているため、複数の凝固因子を喪失する大量出血では第一選択となっています。FFPの容量にもよりますが、30~37℃恒温槽等で融解した場合、投与前準備に20~30分程度要します。FFPは、溶解後3時間以内に使用するのが原則ですが、使用できない場合には、2~6℃保存で融解後24時間以内での使用も可能です。

FFPは、保存液の影響でナトリウムの含有量が高いため、大量投与した場合には、肺うっ血~肺水腫のリスクを高めてしまう可能性があることを理解しておく必要があります1)

クリオプレシピテート

クリオプレシピテートはFFPを4℃で24~30時間かけて緩やかに解凍した後の沈殿物です。解凍後に上清を除去し、沈殿物を少量の血漿部分によく溶かした後、マイナス40℃以下の冷凍庫で保存します2)。クリオプレシピテートは、37℃、10分ほどで溶解でき、FFPと比較して投与量が少ないため、投与前準備および投与を短時間で行うことができます。

FFP-LR480から作製したクリオプレシピテートは40~50mLとなり、フィブリノゲンを0.6~0.8g含むほか、第Ⅷ因子、フォン・ヴィルブランド因子、第XⅢ因子、フィブロネクチン、ビトロネクチン等の接着性凝固タンパクも高濃度に含んでいます。ただし、クリオプレシピテートのフィブリノゲン含有濃度は献血ドナーの血中フィブリノゲン値に左右されるため、バッグごとにかなりのばらつきがみられます。

フィブリノゲン製剤

わが国には、国内生産のフィブリノゲンが濃縮された血漿分画製剤としてフィブリノゲン製剤(フィブリノゲンHT)があります。1994年から病原微生物の不活化がされた安全な製剤が流通するようになり、1998年以降、先天性低フィブリノゲン血症に対して保険適用となりました。2021年からは、産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対しても保険適用が拡大されています。

フィブリノゲンHTは、1本1gを50mLの溶解液で溶かして投与します。フィブリノゲン含有濃度は2.0g/dLで、フィブリノゲン濃度の上昇効果が非常に高いことが特徴です。ただし、フィブリノゲン分画は、第ⅩⅢ因子との結合が強く分離精製が難しいため、同製剤には相当量の第ⅩⅢ因子が含まれています。

フィブリノゲンHTは、温めた溶解液で泡立てないように溶解します。5~10分ほどで溶解でき、FFPと比較して投与量が少ないため、投与前準備および投与を短時間で行うことができます。さらに、病原微生物の混入やTRALI発症のリスクがきわめて低く、安全性については他の血漿分画製剤と同様、非常に高いと考えられます3)

止血目的の輸血製剤の使い分け

FFP投与のみでは大量出血時の止血力は改善できない

大量出血が起こり、補液や赤血球輸血が優先された場合、患者の血中の凝固因子が希釈され、血中濃度が低下し凝固能が落ちてしまいます。特に、最初に止血可能濃度を下回るのがフィブリノゲンです。その他の凝固因子が十分に存在してもフィブリノゲンが足りなければ止血不全を招くことになるため、止血目的の治療は、濃縮されたフィブリノゲンの補充が重要となります(図1)。

しかし、臨床現場ではいまだにフィブリノゲン含有濃度の低いFFPを大量投与するなどの輸血治療が多くなされています。その結果すみやかな止血が図れず、出血量・輸血量の増加と患者の予後不良を招いています。

図1

高度な低フィブリノゲン血症に陥っている大量出血症例ではFFPのみでフィブリノゲン値を上げることは困難

止血の実効性を高めるために、選択するべき血液製剤の種類とは?

大量出血時の凝固障害(高度な低フィブリノゲン血症)に対して投与すべきなのは、フィブリノゲンが濃縮されている製剤であり4)、それはクリオプレシピテートとフィブリノゲン製剤のどちらかです。

クリオプレシピテートおよびフィブリノゲン製剤はどちらもフィブリノゲン含有濃度がFFPの約10倍であり、低フィブリノゲン血症が主体の凝固障害による出血を止血するにはきわめて有効です。濃縮フィブリノゲン3~4gの投与によりフィブリノゲン値は約100mg/dL上昇すると考えられ、高度に低下した血中フィブリノゲン濃度でも一気に止血可能域に達すると期待されます5,6)(図2)。

図2

フィブリノゲンを100mg/dLを上昇させるためには濃縮フィブリノゲン3〜4g投与する必要がある

欧米の周術期輸血ガイドラインにはフィブリノゲン製剤、クリオプレシピテートともにその使用が明記され7-9)、大量出血時の高度な低フィブリノゲン血症における止血の有効性はほぼ確立されています10~14)

Patient Blood Management(PBM:患者さんのための必要最低限の輸血治療)の観点および血液製剤の乱用を防止するためにも、大量出血症例に対する輸血治療においては、リアルタイムにへモグロビン値とフィブリノゲン値を把握して、濃厚赤血球と濃縮フィブリノゲンをタイムリーに充分投与することがもっとも重要です。

まとめ

  • 止血目的に使用される血液製剤には、FFP、クリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤がある。
  • 大量出血時の凝固障害の本態は、高度な低フィブリノゲン血症とも言える。それに対しては、FFPに加え、クリオプレシピテートもしくはフィブリノゲン製剤を投与すべき。
  • 大量出血時の輸血治療においては、へモグロビン値とフィブリノゲン値をリアルタイムに把握し、濃厚赤血球と濃縮フィブリノゲンを迅速に投与することが重要である。

埼玉医科大学総合医療センター
輸血細胞医療部

教授山本 晃士先生


プロフィール

名古屋大学医学部卒業後、名古屋大学大学院医学研究科にて先天性プロテインC欠乏症、米国 サンディエゴ・スクリプス研究所にて線溶阻害因子PAI-1発現異常と病態に関する研究を行う。
2015年に埼玉医科大学総合医療センター輸血細胞医療部教授に就任し、現在に至る。

研究専門分野

  • 出血性疾患および血栓性疾患の分子病態と臨床
  • 凝固障害に対する輸血治療

著書

  • 2016年 POCTを活用した実践的治療~輸血による止血戦略とそのエビデンス(金芳堂)
  • 2018年 Dr.山本の「この一冊で血栓症がとことんわかる!」(中外医学社)
  • 2021年 Dr.山本の「出血検査・治療の当たり前を疑え!」(中外医学社)

関連記事:止血の実効性を高める!大量出血時の輸血戦略

製品情報


参考文献

(1) Matsunaga S, Takai Y, Nakamura E, et al. The clinical efficacy of fibrinogen concentrate in massive obstetric hemorrhage with hypofibrinogenemia. Sci Rep. 2017;7:46749.

(2) 大石晃嗣、松本剛史、田中由美、他.クリオプレシピテート院内作製プロトコール.日本輸血細胞治療学会誌.2016;62:664-672.

(3) Solomon C, Gröner A, Ye J, et al. Safety of fibrinogen concentrate: analysis of more than 27 years of pharmacovigilance data. Thromb Haemost. 2015;113:759-771.

(4) Fries D. The early use of fibrinogen, prothrombin complex concentrate, and recombinant-activated factor VIIa in massive bleeding. Transfusion. 2013;53 Suppl 1:91S-95S.

(5) Chowdhury P, Saayman AG, Paulus U, et al. Efficacy of standard dose and 30 ml/kg fresh frozen plasma in correcting laboratory parameters of haemostasis in critically ill patients. Br J Haematol. 2004;125:69-73.

(6) Collins PW, Solomon C, Sutor K, et al. Theoretical modelling of fibrinogen supplementation with therapeutic plasma, cryoprecipitate, or fibrinogen concentrate. Br J Anaesth. 2014;113:585-595.

(7) O’Shaughnessy D F, Atterbury C, Bolton Maggs P, et al. Guidelines for the use of fresh-frozen plasma, cryoprecipitate and cryosupernatant. Br J Haematol. 2004;126:11-28.

(8) Practice guidelines for perioperative blood transfusion and adjuvant therapy. An update report by the American Society for Anesthesiologists Task Force on perioperative blood transfusion and adjuvant therapy. Anesthesiology. 2006;105:198-208.

(9) Kozek-Langenecker SA, Ahmed AB, Afshari A, et al. Management of severe perioperative bleeding: guidelines from the European Society of Anaesthesiology: First update 2016. Eur J Anaesthesiol. 2017;34:332-395.

(10) Sørensen B, Bevan D. A critical evaluation of cryoprecipitate for replacement of fibrinogen. Br J Haematol. 2010;149:834-843.

(11) Callum J L, Karkouti K, L in Y. C ryoprecipitate: the current state of knowledge. Transfus Med Rev. 2009;23:177-188.

(12) Rahe-Meyer N, S ørensen B. F ibrinogen concentrate for management of bleeding. J Thromb Haemost. 2011;9:1-5.

(13) Levy JH, Goodnough LT. How I use fibrinogen replacement therapy in acquired bleeding. Blood. 2015;125:1387-1393.

(14) Danés AF, Cuenca LG, Bueno SR, et al. Efficacy and tolerability of human fibrinogen concentrate administration to patients with acquired fibrinogen deficiency and active or in high-risk severe bleeding. Vox Sang. 2008;94:221-226.

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